本研究の実績は以下の通りである。 従来、比較政治経済学では、戦後のドイツ福祉国家に関する一定の共通見解があった。それは、第一に、ドイツ福祉国家は職域別社会保険方式を中心に組み立てられており、また家族など伝統的共同体が福祉供給主体として重要な役割を担っていることから、「保守主義」的性格を持っているということである。第二に、そうした「保守主義」的性格がもたらされた理由は、保守政治家が主導して福祉国家を建設した点に求められるということである。 本研究では、以上の通説に反論を加えた。すなわち、ドイツの福祉国家の特徴と、その政治的動力源の新しい側面を明らかにしたのである。具体的にいえば、ドイツ福祉国家は、従来の比較政治経済学で指摘されてきたような保守主義的特徴だけでなく、社民的な要素を持ち合わせていたこと、そしてその形成にあたっては保守主義勢力だけでなく社民主義勢力も重要な役割を果たしたこと、これらの二点を解き明かした。 さらに本研究では、統一以降にこうした福祉国家と政治がどのように変化したのかについても明らかにした。簡潔に述べるなら、ドイツ福祉国家は、統一以降、自由主義型福祉国家の方向へと変化していった。つまり、脱商品化が低下していき、加えて、女性のパートタイム労働者化を促すような福祉国家へと次第に変貌していったのである。このような福祉国家改革の主役になったのは、自由主義者たちである。キリスト教政党だけではなく、社民党内部にも自由主義モデル化を推し進める政治勢力が登場し、そうした勢力に対して従来の左派やニューレフトは敗北していったのであった。
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