研究概要 |
本研究は、カナダはBC州の市民会議(Citizens' Assembly、以下、CA)を主たる手掛かりに、「新しい公共」の時代における行政責任を明らかにせんとするものである。本年度ではまず、理論研究(特に、小職の専門領域からはいくらか隔たりのある「熟議(民主主義論)」)については、日常的に先行研究の成果を摂取することに努めた。そうしながら、特に力を注いだのは、実証研究である。大きくは下記の二点。 第一に、CA成功の内在的要因の抽出。その前提としてまずは、CAに関わる事実関係(主に「ギブソン・レポート」前後から、2009年5月実施の再レファレンダムまで)を、現地でのヒアリングも通じて、改めて丁寧にフォローした。 その結果は、さしあたり、(かつて小職自身が実践および研究を行った)「まちドック」(の限界)と照らし合わせながら、大きく三点にまとめている。一つは、メンバーの選ばれ方(ほぼ無作為抽出である)、二つは、緻密な制度デザインや手厚いサポート体制等に支えられた「学習」、三つは、徹底的な「PR(パブリック・リレーションズ)」である。 第二に、CA成功をいわば外在的に支えた要因に関する考察。端的に言えば、カナダないしBC州における市民社会の動態である。無論、その射程はあまりに広い。そこで、本年度は、いくらか迂遠と知りつつ、一つの題材として「寄付」の実態に迫った。 カナダは世界でも有数の寄付大国である。例えば、年間寄付総額は約1兆円。対し、日本のそれは約7,000億。人口は約4倍、GDPも約3倍、にもかかわらず、である。一体、この差異は何に起因するのだろうか。結論だけ述べれば、それは、巷間よく指摘されるような文化(と税制)だけではない。彼の地の寄付は、豊かなアイデアと巧妙な仕掛けによって支えられている、というのが小職の(仮説的)主張である。
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