本研究の"最終的な"狙いは、「新しい公共」なる社会文脈における行政責任を明らかにすることである。かかる関心のもと、今年度は、大きく二つの研究を行った。第一に、昨年度に引き続き、カナダはBC州の市民会議(Citizens' Assembly、以下CAと略記)の実態解明。具体的には、(昨年度のCA「成功」要因分析をこえ)、その通用性を、独自の評価規準(有効性、効率性、正統性)から包括的かつ具に検証した。一つ一つの結果をここで論じる余裕はないが、総じて言えば、実施コスト(日本円でおよそ4億円)は極めて高いものの、以下の点でそれ相応の積極的意義が認められた。例えば、無作為に近いメンバー選出法、周到な「学習」環境、提言と決定との制度的リンク、積極的なPR(Public Relations)など、である。なお、かかる検証もさることながら、その前提たる評価規準を開発したこと自体、(とりわけ市民参加や行政統制に関する研究にとって)小さくない学術的意義が認められると言えるのではないか。 第二に、熟議なる概念ないし熟議民主主義論のなかに、「行政責任論」再考・再興の手がかりを得た。具体的には、「行政責任のディレンマ」状況を再確認し、それを乗り越える道を探った。いまだ思案中であるため、ここでは、キーワードのみあげておく。統制者・被統制者双方における「選好」(期待とそれへの応答)変容の可能性、"暫定的"責任概念、「対話」の場、(いわゆる「科学の仲間」を振って)「情念の仲間」、ファシリテーションなどである。
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