本研究は、従来の秘密主義的で集権的な英国の議院内閣制の性格が、1997年の労働党政権の成立を受けて始まった国家構造(Constitution)改革の影響で変化しているのではないかという問題意識に立脚している。本年度は、(a)英国における伝統的な政治運営への評価と、近年の変化の方向性とその変化の推進力、(b)その変化がデモクラシーの深化に対してもつ含意について検討を進めた。特に、英国の議院内閣制とこれを支える政党システムの変化について分析し、さらに政府内での政策決定のあり方の変化を考察した。発表業績としては、特に『アステイオン』71巻の「空洞化する英国の議院内閣制」において、司法の自立化を始めとする権力分立的な要素が英国の議院内閣制にいかなる変化をもたらすのか、そしてそれが何ゆえに導入されたのかを検討している。『公共政策研究』9巻に掲載された「議論・調整・決定-戦後英国における執政府中枢の変容-」では、英国政府内においてこの40年に進行した集権化が分析されている。これらの考察は、日本政治における議院内閣制と政党システムの変化を検討するうえでも、類似した問題を抽出するものである。日本政治学会(2009年10月11日)報告「集権的な政策運営を可能にする議院内閣制?-日英比較の視座からの検討-」では、日英比較の視座から、両国の執政権力に起きている変化を捉え、司法を始めとする権力分立的要素が注目される背景を明らかにしている。2009年10月には、実際に英国でこれまでの貴族院から独立した最高裁判所(Supreme Court)が開設され、政府との関係が注目されるところである。本研究は、さらに2009年に成立をした民主党政権下の政策運営のあり方の検討も行っている。
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