研究課題
本研究は、従来の秘密主義的で集権的な英国の議院内閣制の性格が、1997年の労働党政権の成立を受けて始まった国家構造改革、特に司法改革の影響で変化しているのではないかという問題意識を出発点としていた。そのうえで、本研究は、英国における伝統的な政治運営への評価と、近年の変化の方向性とその変化の推進力、さらにはその変化がデモクラシーの深化に対してもつ含意を考察することを目的としていた。2010年が英国政治において総選挙と政権交代の年であったことに鑑み、本年度は、政権交代が英国の議院内閣制のあり方や国家構造改革の全体像にどのような影響をもたらすのかを検討した。政権交代は、前政権によるさまざまな国家構造改革が定着するのか否かを確定し、新しい方向性が登場するかを確認するうえで、重要な機会なのである。本年度の研究は、この2010年の政権交代の意味を捉え、司法改革をより広範な国家構造改革の方向性のなかに位置づける作業を行った。本研究の期間中であった2009年には、イングランドとウェールズに新しい最高裁判所が設置された。最高裁判所によれば、それはまさに「ほぼ900年にして初めて、司法の独立が法的に公式に記されることになった」出来事であった。司法の積極化はすでに1970年代から80年代にかけて司法審査の増大というかたちでみられたことであるが、1998年に欧州人権条約の国内法を定めた人権法の制定により、一層、顕著となった。もちろん、英国の最高裁判所が米国の連邦最高裁判所のように政府や議会から独立した機関であることと比較すれば、その独立性は不十分である。だが、特に警察や移民政策に関連して、司法の役割の増大とその積極化は顕著である。ただし、司法の積極化を支える源泉の重要な源泉のひとつである1998年人権法については、連立政権が、新たな権利章典の確立を指向する動きも見せており、事態はなお流動的である。本研究は結論的には、英国の議院内閣制が集権的構造を維持しつつも、政治不信という時代状況のなかで、レファレンダムの使用、実効的な二院制の検討、小選挙区制という選挙制度の問い直し、新設の最高裁判所の定着という事態から、議会と政府がかつてのような自由な裁量を制約される制度配置が英国で少しずつ検討され、定着していることを確認した。
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豪日交流基金助成・オーストラリア学会主催、オーストラリア公開講座講演録
巻: 第4期・2010年度秋学期号 ページ: 51-57
成蹊法学
巻: 73 ページ: 43-70
世界
巻: 7月号 ページ: 29-32