研究概要 |
本年度の研究は、9月と2月の2度にわたる、スペインでの史料調査・収集が中心であった。調査対象は1主に、アルカラ・デ・エナーレスの総合行政史料館(Archivo General de la Administaracion, AGA)である。 本年度の研究における最大の成果は、フランコ体制下で1954年に実施された市町村選挙(elecciones municipales)の結果や、その実態の解明に寄与するであろう史料の発見である。 フランコ体制においては、1948年から定期的に市町村選挙が実施されてきたが、当初は非常に制限的なものであった。だが1950年代に入ると、体制は徐々に抑圧的な性質からの脱却を図り、政治社会からの幅広い支持調達を志向するようになる。1954年選挙は、このような意図の下、多少なりとも自由度を高めて行われたものであった。 今回収集した、各県指導部から、政府への報告には、候補者の擁立や、地方指導部の選挙への関与、人々の選挙への態度などが詳述されている。それらの史料の分析により、1954年選挙の持つ非常に複雑で多義的な諸相が浮かび上がってくる。 政権側は、選挙の自由度・競争性を増加させることでその正統性を高めようとしながらも、反対派候補が当選する可能性の高い選挙区においては、極めて制限的な選挙とせざるをえないというジレンマに直面した。また、人々は選挙の公正性に対し、概して強い不信感を抱いており、「人々からの積極的・自発的な支持調達」という目標は困難であった。 1950年代に、フランコ体制は新たな正統性確立を模索するが、その際直面した大きな桎梏の一つの要素が、本年度の研究で詳細に解明できた。また本年度の成果は、権威主義体制における選挙の実態と意義に関する比較研究にも、一定の貢献ができるであろう。
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