研究概要 |
本年度の研究も、昨年度に引き続き、9月と3月の2度にわたる、スペインでの史料調査・収集が中心であった。調査対象は主に、アルカラ・デ・エナーレスの総合行政史料館(Archivo General de la Administaracion, AGA)である。 今年度の研究は、「研究実施計画」に記載したとおり、1956-58年が主たる対象である。まず、昨年度の成果を引き継ぐ形で、1957年の市町村選挙に関する史料の収集と分析を行った。ただ、54年選挙と比べると史料の整備・保管状況が芳しくなく、最もまとまった形で史料が残存していたバレンシア県に焦点を絞って、両選挙の性質の差などを考察するという手法を採用した。 2点目の研究成果は、1950年代中盤以降の経済政策の変遷についてである。従来の研究では、1950年代の経済政策は、「介入主義・アウタルキー(自給自足経済)派」対「経済自由化・対外開放派」という、二項対立的図式で描かれることが多かった。だが実は、1950年代を通じて、フランコ体制内部に様々な思想的な政策的潮流が存在することが明らかになった。今年度の研究では、上記2つの路線とは異なる、「第三の道」とも言うべき政策集団に焦点を当てた。具体的には、マドリード大学出身の経済学者を中心とした、ファランヘ的思想を持ちながらも、介入主義とは異なる方法で富の再分配・社会正義の実現を目指したグループに関して研究を進めた。二次文献の渉猟が中心となったが、ファランヘ党の機関紙『アリーバ(Arriba)』において彼らが手がけた論説なども調査・収集し、また収集済みの史料(特に1953年10月のファランヘ全国大会)との照合・分析も行った。 以上得られた知見を踏まえ、1950年代の政治史に関する新たな、統一的な視点を提示すべく、現在博士論文の執筆を進めている。
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