本研究は日本における政権交代をテーマとしたものであり、2009年8月の総選挙において実際に政権交代が実現したことにより大幅に研究を進めることができた。具体的に、総選挙前後に行われた読売・早大共同調査の世論調査データをRAと共に分析し、10月には政権交代に関して他の研究者との共著本を出版。その成果をもって2010年1月アトランタでのアメリカ南部政治学会での報告、UCLA Terasaki Center for Japanese Studiesでの招待講演、3月のGeorgetown大学での招待講演を行った。 これまで日本においては選挙におけるいわゆる「スウィング」に関する体系的な理論が存在しなかったが、本研究では与党に対する失望と野党に対する期待を鍵に理論を構築し、それを2009年総選挙に当てはめ経験的に検証可能な仮説を導き出した。そして、それを総選挙時に収集したデータを用いて検証したところ、実際に仮説通りの結果を得た。すなわち、政党支持や個人属性などの変数をコントロールした上でも、与党自民党に失望し、かつ野党民主党に期待する有権者ほど投票参加し、さらに民主党に投票することが明らかになった。またその失望と期待の原因は、財政再建、年金問題、国会議員の「世襲」の制限、中央省庁などの行政改革であった。これらは、今後、日本の選挙におけるスウィングを予測するための理論を構築・洗練するための重要な知見である。 また、データからは、有権者にとって経済問題がきれいな政治や外交・安全保障の問題よりも重要であること、自民党支持者は民主党支持者よりも外交・安全保障の問題を重要と思っていること、2009年総選挙での自民党の大敗は必ずしも小泉・竹中の構造改革路線に対する有権者の反発の表れではない、などという興味深い知見も得られた。
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