今年度は昨年度行った2009年総選挙におけるデータ分析の結果およびその後の状況を体系的に解釈するべく、それらを理論化する作業を行った。 具体的にリサーチクエスチョンは、(1)なぜ2009年総選挙において有権者は、これまで実績の無い民主党を支持したのか。(2)そしてその後、なぜ民主党の人気は低下したにもかかかわらず野党第一党の自民党の支持がそれほど高まらないのか、というものである。これらのリサーチクエスチョンに対して、既存の理論から答えるのは難しい。業績評価投票の理論や経済投票の理論は2009年の自民党離れを説明するかもしれないが、なぜ棄権ではなく民主党の支持が高まったのかを説明しない。また野党への支持は与党への失望の裏返しであるとの説明も、民主党の不人気にかかわらず自民党の人気がそれほど高まらない状況を説明しない。 筆者の研究が示唆することは、2009年総選挙において有権者は経済や社会の閉そく状況を打開すべくリスクを取りたがっており、民主党の不確実さを好んだ一方、政権交代後の自民党は不確実性が低く、リスクを好む有権者の「ギャンブル」の対象にならないのでその支持を得られないというものである。研究の結果はまた、有権者は野党を評価する際には不確実性を好む一方、与党を評価する際には不確実を嫌うということを示唆した。これは、有権者は常に不確実性を嫌うとの既存の研究の前提とは異なるものであり、日本政治研究の文脈を離れて、より広く投票行動研究一般に対して貢献できる可能性をもつ。これらの成果は、2011年1月のアメリカ南部政治学会をはじめ国内外の学会・研究会で発表された。
|