本研究の目的は、中曾根政権による米ソINF削減交渉への外交的コミットメントを明らかにし、日本の国際安全保障面での課題設定能力を解明することである。当該年度においては、第一の問題である「国内政治主体間のINF問題認識と西側結束支持が決定されるまでの過程」について、中曾根元総理へのインタビュー(18回)を試み、情報公開法を通じた外務省への文書開示(34件)を実施した。これにより、首相が政権初期に、サミットで核軍縮についての強力な発言権を得たことが、INFグローバル解決という外務省の対米・対ソ交渉姿勢を強固にし、NATO諸国との非公式接触の拡大を促進する大きな要因になったという事実を明らかにできた。また、第二の問題である「INFに関する日米欧中ソの間の個別協議の実相」についても、欧州地域に比して削減に時間のかかるアジア部INFの問題につき、欧州側、特にフランスがグローバル解決に慎重な姿勢を日本に見せたことが明確になった。すなわち対ソ戦略に関する認識相違を前にしたときには、西側結束が危うい政治的信頼の上に保たれていた事実を発見することができた。さらに、INF交渉の最終段階で浮上した西欧の戦術核削減についても、中曾根首相自身がサミットでの論争を制し、日米安保の枠組みを超えてグローバルな観点からソ連との核軍縮交渉を現実的に進めるためのアイデアを提示していたことがインタビューと史料による裏付けで明らかとなった(ここまでの内容を日本国際政治学会で報告した)。第三の問題である「米ソ間でのアジア部INFの扱いと同盟国の処遇」については、引き続き国内外の史料収集を実施し、米ソ軍縮交渉に対し日本が間接的に果たした役割を解明する。本研究の意義と重要性は、従来、防衛協力や経済援助の側面でしか語られてこなかった日本の冷戦終結への貢献度を核軍縮および核抑止維持の観点から明らかにするという点にある。
|