本年度は、1880年代後半の朝鮮における近代的な国際関係論の形成を、当時の政権担当勢力の思想の変化から明確にするために、研究の当初から中核の研究対象として位置付けていた関泳翊という人物、そして、集玉斎図書というテクストを探求する作業を行った。韓国、中国、香港、アメリカ、イギリスなどにおける広範な資料調査に基づいた研究を行った結果、これまで明確になっていなかったもう一つの近代的な国際関係論の系譜の存在を明らかにすることができた。この系譜とは、国際関係において、「近代の追求」と「近代への反発」が一体化されている複雑な国際関係論の系譜のことを指す。1880年代において、朝鮮の政権勢力はその特権的な位置から、西洋に関する知識と情報への豊富なアクセスができたために、民間の勢力などよりいち早く西洋の近代的な国際関係の普遍性とともに侵略的な側面も理解できた結果、近代への相反する態度を持つ系譜が登場したのである。この発見を示す実証研究として、関泳翊において、「帝国の時代」における近代的な国際秩序の実状の理解が、清との伝統的な字小事大の国際関係の重視へつながったことを明らかにした「暗黒の連合:関泳翊の国際関係認識における伝統と近代」を執筆した。この系譜の発見は、「近代の理解=近代国際関係論」と「近代の無理解=伝統的国際関係論」という二項対立の構造から描かれてきた近代朝鮮の国際関係認識の研究に、もっと複合的な思想の存在を提供することで、豊富な歴史の理解できる可能性を広げたという意義を持つと思われる。また、集玉斎図書に関する同様な観点からの研究を執筆しているので、また学界に報告することになろう。
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