本研究は、冷戦後のフランス歴代政権が地中海地域に対していかなる外交理念・戦略・政策を形成・展開してきたのかを明らかにし、その多国間主義外交の理念・戦略の本質を解明することを目的としている。 2年目となる本年度は、フランスの地中海外交に関する内外の研究論文の渉猟を進め、併せてこの時期の大統領経験者であるシラクとサルコジの演説や手記類の検討を進めた。 また、フランス外交を検討するに当たって、EU(欧州連合)としての対外政策の展開も切り離して考えることはできないので、EUの公文書(とくに対地中海政策)の収集を進めながら、総合的にフランスの対地中海外交の特質の検討作業を進めた。 そして、フランスの研究協力者(西パリ・ナンテール大学G・フェラギュ氏ほか)との意見交換のほか、フランスと同じくEU加盟国として地中海外交に深い関わりを持つイタリアの動向を探るため、イタリア及びフランスへの訪問調査を9月に、EUとフランスへの調査を3月に実施した。 研究成果の一部は、『日本EU学会年報』(第30号、2010年4月、日本EU学会)に「EUの対中東予防外交-東地中海地域を中心に」を掲載して予防外交という文脈のなかでの地中海の位置づけを示し、日本国際政治学会研究大会(2010年10月30日)では「EU統合下における地域の形と国家主権の位相」と題する研究報告を行い、EU共通外交の進展するなかでの国家主権の変容がフランスの地中海政策にどのように関わっているかという観点で、検討結果を発表した。
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