本研究は、幕末期に展開される欧米諸国との関係を、江戸時代を通じて維持された対朝鮮を軸とする日本の国際関係の蓄積のうえに位置づけ、徳川幕府による外交の連続性を見出すことを目的としている。初年度はまず前半において、分析の軸に据えた幕臣筒井政憲の事績に関し、後半生を中心に、本研究以前からの調査結果を深める形で確認を重ね、別記した二つの機会に発表した。 それらの場で関係諸氏から得たご助言を踏まえ、主に年度後半において集中的に試みたのは、筒井を基点として、幕末の動乱期、「開明派」と位置づけうる幕臣たちを取り上げ、彼らの人脈を具体的にたどるという研究展開である。別記共著書の担当部分「坂本龍馬と開明派幕臣の系譜-受け継がれた徳川的教養」にまとめたのがその成果であり、徳川幕府の外交政策担当者たちが世代交代をしながら現場で受け継いだ経験の蓄積に光を当てることで、これまで語られてこなかった一つの「連続性」を浮かび上がらせることに成功したと考えている。このためとくに、長崎(主に長崎県歴史博物館、三菱重工長崎造船所史料館)、横浜(主に開港資料館、静岡(主に静岡県立中央図書館)にて情報収集を行った。 この作業を通じて、「近世」と「幕末」をつなぐ位置にある筒井政憲の重要性があらためて認識されたが、第二年度は、この人物の事績・履歴について、前半生を含めさらに詳細を明らかにする計画であり、年度末に行った佐賀での調査から事実上これに着手している。また、上述の研究において、筒井の系譜が永井尚志や岩瀬忠震から、勝海舟を経て坂本龍馬までつながったことは、龍馬を経てさらに薩長の「近代」政府へとつながらざるをえない徳川開明派の位置を暗示するものであり、それを開明していくという大きな課題を新たに投げかけられたと受け止めている。それについては、本研究を終了後も引き続き、時間をかけて取り組んでいきたい。
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