本研究の目的に基づき、今年度においては、主として以下の2つに着目した。 1日本の高等教育改革・政策 大学の役割として強化されつつある「社会貢献」機能について注目している。1990年代社会・経済構造の変化にともない、大学に求められる社会的役割も変化した。背景には、教育における規制緩和と競争原理の導入があり、大学に対しては運営交付金の継続的カットと相次ぐ競争的資金の導入による政策誘導をはかった。そのような背景の中で「社会貢献」機能が確立した。大学の果たすべき役割として様々な形で地域社会や地域経済、そして国際社会に貢献することが大学の個性化につながった。 2日本の国際協力政策 2000年代に入りODA予算が毎年減額されるようになり、「効率化」をはかるための官民連携、いわゆる「国民参加」の促進が強化されるようになった。2003年に改定されたODA大綱の中で、大学は「国民参加」の一アクターとして国際協力に参加することが求められた。文部科学省は3次にわたる「国際教育協力懇談会」において、国立大学の法人化と歩調をあわせるように、大学の社会貢献としてODAとの連携強化、業務委託を促進することを大学に求めた。政府は大学の国際化、国際競争力の向上を目的とする競争資金やODA事業を通じて、大学が組織として国際協力事業に取り組むことを後押しした。こうして大学の国際協力事業への参加を積極的に推し進めようとする政府と社会の動きがある中で、国立大学法人を中心とした各大学は国際化、個性化、社会貢献と研究・教育機能を関連づけながら国際協力事業への参加を試みはじめた。 3今年度研究の意義 以上の2つのアプローチにより、日本の大学の「社会貢献」機能に国際協力が含まれるようになった点、しかし、大学の国際協力事業は課題が山積しており、直ちに市民間の信頼醸成につながるとはまだ断定できる状況ではない点、を明らかにしたことに意義がある。
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