平成21年度は、核の先制不使用という約束のコミットメントが、核の傘という脅迫のコミットメントの信憑性に、どのような影響を与えうるのかを主に検討した。そこでは、約束と脅迫という2つの安心供与のコミットメントについて、その関係を理論的に検討するとともに、実証レベルにおいては、核の先制不使用案をめぐる肯定的ならびに否定的意見の根拠について、冷戦期と冷戦後では変容と持続が見出せることを浮き彫りにした。これらの成果として、日本軍縮学会(於:一橋大学)で「核先制不使用の意義と問題点」と題する報告を行った。現在、同学会でいただいたコメントを踏まえたうえで、「核軍縮・不拡散に関する国際委員会」の報告書『核の脅威を絶つために』と、米国の『核態勢見直し報告』を取り上げて、核の傘と核の先制不使用の関係をさらに深く分析を進めている状況にある。さらに平成21年度は、核の傘と、もう1つの約束のコミットメントである消極的安全保証(とりわけ非核兵器地帯の文脈における消極的安全保証)との関係についても検討した。その成果は、龍谷大学アフラシア平和開発研究センター主催の国際シンポジウムにおいて、"Japan's Diplomacy on Asia: A Nuclear-Weapons-Free Zone in Northeast Asia"との題目で報告を発表するとともに、それを同センター編集のプロシーディングスに論文として刊行することができた。本研究の主たる目的は、約束と脅迫という安心供与のコミットメントに着眼することで、理想主義として捉えられがちな核軍縮・不拡散措置の実行を、現実主義として理論的かっ実証的に捉え直すことにある。その1つのアプローチとして、理想主義と現実主義を超える理想主義的現実主義の概念を取り入れたいと考えており、その概念整理の成果をInternational Convention of Asian Scholars(於:韓国)、British International Studies Association(於:イギリス)、International Studies Association(於:アメリカ)において、精力的に研究報告を行った。
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