本研究の研究課題は、大西洋同盟における強制力行使論争の実態を解明することにあり、 その論争における冷戦期の反デタント派の影響力を把握することにある。本補助金の研究活動一環として、これまで1970年代から2000年代の強制力行使論争の変遷を整理しつつ、1990年代半ばから後半にかけての諸紛争への大西洋同盟諸国による関与の実態を分析した。 今年度はこれらの作業に加えて、1980年代末から90年代前半の冷戦終焉期に焦点をあてて、アメリカのブッシュ(父)政権内部での政策形成過程と、イギリスのメイジャー政権の政策形成過程とをより詳細に分析した。その際前者に関しては、ブッシュ大統領図書館(テキサス州)で最近公開された一次資料に立脚し、ブッシュ政権期にNATO拡大計画が存在していたこと、その拡大計画は米ソ(ロシア)関係改善やソ連崩壊があったにもかかわらず、1992年半ばまで継続していたことと、その動機が米欧対立にあったことを確認した。このことは、米ソ関係やの展開からNATO拡大論の動機を説明してきた先行諸研究の判断に見直しを迫るものである。 また、後者については、1990年代後半にブレア労働党政権の主張した「人道的介入」の背景には、メイジャー政権期に政権側の対外政策構想とサッチャー前首相のそれとの緊張関係が存在したことを指摘し、当時の野党労働党がサッチャーの見解に影響を受けた形で政権獲得構想を描いていたことを明らかにした。このことも、先行諸研究がブレア氏の外交思想に注目し、その独創性と一貫性を前提として議論を展開していることに見直しを促すであろう。 研究成果としては、共著一冊と単著論文を二本まとめ、過年度を含めて本科研費による研究活動で得た知見を活字化した。
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