本研究は、いわゆる「西側秩序」論の妥当性を実証的に検討した。同秩序論は、「多角主義」に則った多国間の政策調整が第二次世界大戦後のアメリカ世界政策の基調であるとの前提に立ち、「(アメリカ)単独主義」的な行動は戦略的な選択の結果ではなく、議会と大統領関係に代表される国内政策決定過程によって「例外」的に生み出される一過性の姿であると解釈する。これに対し本研究は、反デタント派の動向一つの手がかりとして1970年代から現在に至る対外的強制力行使に関する大西洋同盟内の諸論争を分析し、次の三点を明らかにした。第一に、冷戦後の対外的強制力行使に積極的な主張は、反デタント派から党派や国境横断的に派生している。第二に、大西洋同盟の「行動」から判断すると、主要同盟国がアメリカの政策決定に与える影響は限定的である。第三に、米政府は冷戦終焉期から90年代半ばにかけて、国内政治の影響を受けつつも、大西洋同盟内の主導権確保をより重視して政策判断を行っていた。つまり、冷戦後の単独主義は、反デタント派の知的人的基盤を背景としたアメリカ政府の戦略的判断の結果として出現したのである。
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