1968年1月から始まる解放戦線によるいわゆるテト攻勢は、そのインパクトからアメリカにおける反戦運動を引き起こし、結果的にベトナムからのアメリカ軍の撤退をもたらすことになった。現在のベトナムにおいてテト攻勢は、「軍事的には失敗したが、政治的には成功した」と総括されているが、当時のベトナム労働党(現在のベトナム共産党)指導部においてどのような討議が行われていたのかは、十分に明らかにされていない。 平成21年度の調査において訪問した「南ベトナム女性博物館」で、テト攻勢時、中国で静養していた最高指導者ボー・チ・ミンから労働党第一書記をしていたレ・ズアンに送られた、1968年3月10日付け手紙を発見することができた。この手紙の一部は、ベトナム共産党が発行している『ホー・チ・ミン略史』(Ho Chi Minh : Bien Nien Tieu Su)の中で、タイプされたものが紹介されている。しかし今回の調査において、上記博物館で直筆の手紙(全文)の複製を発見することができた。全文の方では、テト攻勢での完全勝利の前に、ホー・チ・ミンが南ベトナムを秘密裏に訪問したいという強い意気込みを表明していることが明らかになった。 このことから、中国にいたホー・チ・ミンにはテト攻勢が順調にいっていると誤った戦況報告されていたことが分かる。同時に、レ・ズアンが実質的な指揮をとっていたことも明らかになった。テト攻勢時のベトナム労働党中央と南ベトナムの解放戦線との関係を明らかにするうえで重要な資料である。 一方、このような資料の複製が南ベトナムの博物館に存在したことについての理由を明らかにすることはできなった。今後の研究課題としたい。
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