研究概要 |
本研究の目的は人的資本蓄積に対する借入制約の,経済成長および格差への影響を理論的・実証的に明らかにし,それに対する適切な経済政策を考えることである.主に動学マクロ経済学の観点から,借入制約や経済成長を定式化し,理論的な結論を求めて実証的妥当性を検証することであった. 本年度の目標は解析的な分析を主に行うことであった.当初の予定では,最低3期の世代重複モデルによる借入制約の存在する人的資本蓄積世代重複モデルを構築することであったが,まず貨幣を導入したモデルで政策(貨幣調達,所得税調達)効果を分析した.これは,借り入れ制約を分析する際に貨幣とその他物的資本の役割の違いを明確にすることが,重要であろうと考えたからである.そこでは,複数均衡や均衡の非決定性など動学的な性質として興味深い結果が得られた.さらに,money-in-production functionという貨幣導入の定式化により,それまでcash-in-advanceモデルやtransaction costモデルでは得られなかった,インフレーシヨンの悪影響についても導くことができた. これらの結果は当初の目的である,借入制約の経済成長および格差への影響を理解するために以下のような理由で重要である.すなわち,借り入れ制約を回避する際に,人々は貨幣や物的資本で貯蓄を行おうとすると考えられるが,その際にその経済における,貨幣の使われ方によって,政策効果が違うと予想されるからである.
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