研究概要 |
本研究の目的は人的資本蓄積に対する借入制約の,経済成長および格差への影響を理論的・実証的に明らかにし,それに対する適切な経済政策を考えることである.主に動学マクロ経済学の観点から,借入制約や経済成長を定式化し,理論的な結論を求めて実証的妥当性を検証することであった. 前年度までに貨幣を導入したモデルで政策(貨幣調達,所得税調達)効果を分析し,それを海外での2回の発表を経て,投稿論文に仕上げつつ,研究会での発表を行った. そこで,構築されたモデルでの結論の主要な1つである.複数均衡の存在が政府支出の定式化に依存すること,貨幣の導入の仕方が若干特殊であることが指摘された. 具体的には,政府支出が資本当たりで決定されているのか,それとも生産量当たりで決定されているのかにより複数均衡の発生可能性が異なるということである.したがって,より現実的な生産量当たりで分析することが求められることになった.この結果,均衡の非決定性や複数均衡などが存在しなくなること,また貨幣発行による資金調達と所得税による成長や厚生への影響も,これまでのような所得税調達の方が必ず望ましいという結果では無く,そのときの調達依存度に依存するという結果が得られた.このように現実的なインプリケーションにつながる,指摘を受けたことを踏まえ,貨幣経済における広い意味での税の帰着の分析を開始した.また,これまで想定していた,コブ=ダクラス型生産関数をCES型生産関数に変えて分析を行った.これにより,幅広い貨幣調達,所得税調達効果の分析ができるはずである. 今後は以上の結果を基に当初の目的である,借入制約の経済成長および格差への影響をと貨幣の使われ方との関係について考察をしていく.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに研究会や論文投稿時のコメントとして指摘された,政府支出が資本当たりで決定されているのか,それとも生産量当たりで決定されているのかにより複数均衡の発生可能性が異なるということを理論的に考慮して分析していく.同時に,税調達と貨幣発行調達の最適比率はその時の調達依存度に依存するという結果は,最適課税の理論と関係していると思われるので,その分野の文献も同時に参照していく.
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