研究概要 |
本研究の目的は人的資本蓄積に対する借入制約の,経済成長および格差への影響を理論的・実証的 に明らかにし,それに対する適切な経済政策を考えることである.主に動学マクロ経済学の観点から, 借入制約や経済成長を定式化し,理論的な結論を求めて実証的妥当性を検証することであった. 前年度までに貨幣を導入したモデルで政策(貨幣調達,所得税調達)効果を分析した.ここでは,複数均衡や均衡の非決定性など動学的な性質として興味深い結果が得られた.本年度は,所得税だけでなく資産所得税,資産課税の場合についても分析を拡張した.その結果,所得税調達の場合はある特殊な条件の下でしか得られなかった複数均衡が資産所得税の場合は同じように特殊な条件の下でしかおこらないが,資産課税の場合はより一般的に起こることが示された.今後日本で資産課税の強化が行われていくことを考えると,重要な政策的なインプリケーションを持った結果だと考えている.なぜなら,貨幣動学モデルはある種の流動性制約を反映していると考えているが,資産課税が複数均衡をもたらすのであれば,資産課税強化が必ずしも資産不平等に対して有効とはならないかもしれないからである. また,成長率分析と厚生分析も行ったが,これはいずれも複数均衡のうち決定的な均衡の方が成長率も厚生分析も高いという結果が得られた.これはこれまでの所得課税の結果と同じである.以上の結果はAsian Meeting of Econometric Society 2012で発表された.
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