研究概要 |
平成21年度は基本モデルの特定に集中した。理論の核となる均衡模索過程の特徴付けについては、原理的には過去の研究(Nirei 2002, 2006, 2008)で分かっているものを応用した。この原理によれば、ミクロレベルの投資が不可分であるときは、Long and Plosser(1983)タイプの企業投資間の弱い戦略的補完性だけでマクロレベルの投資ショックが内生的に(つまり力学の非線形のみによって)生じる。この結果を踏まえ、自律的な投資変動が景気循環を引き起こすモデルを構築した。従来より指摘されているように、標準的な一般均衡モテルでは伸縮的な要素価格の安定化効果により投資振動は産出振動に結びつかない。そこで、要素価格についての契約が一期間前に締結されることをモデルに導入した。また、消費の共循環を再現するために、Carroll(2001)にならい家計が借入制約に服すことをモテル化した。これらを導入したモテルはKrusell and Smith(1998)タイプの異質的な家計とマクロショックの存在する動学一般均衡モデルになるが、これを数値的に解析するために、Journal of Economic Dynamics and Controlの2009年7月の特集号に集積された解法が大いに参考になった。数値計算を実装し、現実的なパラメータ値のもとで生産、消費、投資、労働投入が正相関する結果が得られた。しかし各変数の自己相関は観察されなかった。これは、伸縮的な利子率による投資ショックの平準化効果だけでは景気循環に対応するような自己相関は得られないことを示唆する。投資のtime-to-buildを考慮にいれれば望ましい性質が得られると思われるが、この仮説をモデルに実装することは平成22年度の課題に持ち越されることになった。
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