研究概要 |
平成23年度は本研究の最終年度であり、成果の国際的発信と景気循環モデルの完成に集中した。大規模設備投資の企業間戦略的補完性による波及効果の実証的推定についての論文は、共著者を加えた改稿を発表した上で査読誌に投稿中である。また異質的家計のパレート分布についての理論実証論文も査読誌に再投稿中である。内生的景気循環モデルについては、異質的家計のある動学一般均衡モデルの計算をほぼ完成させていたが、time-to-build仮説を導入すると計算が大変困難になることが分かった。そこで方針を転換し、Monacelli and Perotti(2008)にならって、代表的家計モデルでも消費と労働の正相関が導かれるような、消費と余暇が非可分でかつ財価格が先決的なモデルを開発した。これにより、一般均衡動学はシンプルなものになり、すでに完成していた内生的投資振動発生の部分均衡的非線形動学との理論的関係が見やすくなった。Simsアルゴリズムによる数値計算の結果、通常のパラメータ値のもとでこの一般均衡動学の一意存在性が示された。現時点でのシミュレーション結果によると、マクロ的外生ショックが存在せずに350,000社の企業に年率標準偏差1%の外生的生産性ショックがおこるという設定で、産出、消費、投資の年率標準偏差がそれぞれ1.71,0.89,5.07%となる。マクロショックに依存しないという点とシミュレートされた振動パターンの双方から、内生的振動をもたらす動学一般均衡モデルを示すという目標は達成されたと考える。現在の通説は循環の原因とされるマクロ的全要素生産性ショックについて満足できる根拠付けがなされていないという欠点をもっているが、本研究ではそのショックを発生させる現実的なメカニズムを示した点に意義がある。
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