本研究は、主流派の金融政策論であるインフレーション目標政策論と政策ルール論をポストケインジアン的視点から批判的に検討を行った。研究の成果は、第一に、インフレーション目標政策論の政治経済学検討により、インフレーション目標政策論は政治的な制度配置として、衆愚的な政治家と公衆を想定しており、一種のテクノクラート支配となっているだけでなく、市場とのコミュニケーションを重視することによって、金融的な利害を反映させやすくなっている可能性がある点を明らかにした。第二に、金融的な現象が経済において重要度を増す現象、すなわち、金融化と金融政策の関係に関して検討を行った。金融化が進展していると評される自由主義的なアングロ・サクソン諸国は基本的にインフレーション目標政策を実際に採用している点を指摘した。また、インフレーション目標政策が所得分配に与える影響に関しても理論的に考察し、インフレーションよりもデフレーション気味の状態が好まれる結果、労働者には不利な影響が考えられることが明らかになった。第三に、ケインズの「金利生活者の安楽死」論の形成過程を詳細に検討することにより、ケインズ理論における意義、及び、その応用可能性を考察した。第四に、内生的貨幣供給論における金融の位置付けの検討を行い、貨幣供給のメカニズムとの関連で、その役割を検討した。さらに、具体的な分析としてリーマン・ショック後の金融危機との関係も論じた。第五に、内生的貨幣供給論における金融政策論の検討を行った。
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