以下の2点の成果を挙げる。 (1)金利データは、通常パネル状になっている。このデータの縦方向(時間)と横方向(満期)の両方を整合的に説明できる動学的金利期間構造モデルを開発した。このモデルを用いて現在のイールドカーブの情報に基づいた金利ボラティリティを抽出し、これがボラティリティの将来予測に役立つかを検証した。既存研究が用いたモデルでは、イールドカーブから抽出したボラティリティは、GARCHなどの通常のボラティリティのようには振舞わないという問題が生じていた。当研究では、イールドカーブに影響を及ぼすファクターの変動モデルをよりデータ適合的にすることで、この問題を克服した。イールドカーブには、投資家の債券投資に関するリスク・リターンの将来見通しが反映されているため、金利ボラティリティに関する有用な情報が含まれていると期待される。実際に米国データを用いて検証した結果、イールドカーブから組成したボラティリティ予測量を時系列データから組成した予測量と組み合わせることによって、後者のみを用いた場合よりも予測力が向上することを確かめた。同様の結果は、オプション価格から示唆されたボラティリティを用いた研究で多く示されている。しかし、イールドカーブから示唆されたボラティリティでも成り立つことを示した研究は非常に少ない。その意味で、当研究は、2つの大きなリテラチャー間のギャップを埋める役割を果たしたと言えよう。この成果は、一橋大学・経済統計ワークショップ(金融工学教育センター(CFEE)と共催)で発表した(題目名:Interest Rate Volatility Implicit in Term Structure Data)。 (2)前年度から取り組んでいた、データ適合的なボラティリティ変動モデルを考慮した上で、オプション価格の高速計算を可能にする方法について、論文を完成させた(題目名:Fast Computation of European Option Prices via Approximation to their Fourier Transform)。現在、投稿中である。
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