研究課題
昨年度に引き続き、財団法人家計経済研究所が実施している「消費生活に関するパネル調査」を用いて、労働所得変動の実証分析を行った。本年度は、前年度までに得られた結果の頑健性を確認するため、これまでに行った分析の再検討および精緻化を行った。第1に、米国の先行研究と比較可能にするために、既婚女性の夫の労働所得、労働時間、および労働経験年数に関するアンバランス・パネルデータから、高卒グループおよび高卒と大卒からなるグループを作成し、所得プロファイル不均一モデルの再推定を行った。その結果、労働所得成長率のばらつき度を表すパラメータは、いずれのグループにおいても有意に推定されることが確認された。また、この分析により、中卒以下を含む非大卒グループを用いた場合の推定値は、若干のバイアスをもつことも明らかとなった。第2に、以上の新たなグループに対して、第1段階推定の回帰式に職業ダミーを含めるごとで、職業差が推定結果に与える影響を再評価した。職業差をコントロールしない場合に比べて、労働所得成長率のばらつき度を表すパラメータは、やや小さい値を取ることが確認された。さらに、以上の推定においては、いずれの場合も確率的ショックの持続性を表す自己回帰パラメータの推定値は1より有意に小さく推定されることが確認された。第3に、米国の研究結果との比較から、日本の場合には固定効果のばらつき度も所得変動に寄与していること、労働所得成長率のばらつき度を表すパラメータの大きさは、大卒と高卒の間で米国ほど大きな差がないことが分かった。以上の結果はいずれも、これまで日本の労働所得変動に関する先行研究では十分に議論されていない点であり、日本経済を対象とした不完備市場モデルを構築する上で注意すべき重要な結果と考えられる。
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Department of Social Systems and Management Discussion Paper Series, University of Tsukuba
巻: No.1290 ページ: 1-58