研究概要 |
本研究の目的は,国内と海外の先進諸国のマイクロデータを用いて,統一的な定義・基準を設定し,ワーキングプアの規模とその諸特性について国際比較を行うことである。第一に今年度は各国(カナダ,アメリカ)のマイクロデータおよび関連諸制度(最低生活基準)の検討を行った。検討の結果,カナダのマイクロデータは申請と受理に時間を要し,カナダの最低生活基準が州ごとで多様であることが分かった。また,カナダの「労働力調査」がカナダのワーキングプアの推計に不十分な調査であることが分かった。これらを踏まえ,カナダ統計局にマイクロデータ(SLID)の利用申請を行った。実際に受理までに時間を要した。受理までに,ワーキングプアの規定を再考し,日本のワーキングプアの再推計を行った。第二に,カナダ統計局よりSLIDを受理し,カナダのワーキングプアの規模を推計した。メタデータで利用可能であると表示されている変数が,マイクロデータに含まれない場合があることが分かった。最後に,日本とカナダのワーキングプアの比較を行った。カナダのワーキングプアの推計結果を論文に掲載する際に,カナダ統計局のチェックを受けた。日加比較の結果,ワーキングプアが,若年・高齢層に集中していること,自営業・不安定就業層に集中していること,従業員規模が小さい層に集中していることが,日本とカナダで共通する特徴であることが明らかとなった。一方で,カナダでは女性よりも男性にワーキングプアが集中していること,日本の中高齢層女性にワーキングプアは集中しているがカナダではそうなっていないこと等も明らかとなった。以上のように,今年度は,日加のワーキングプアに関する基礎データの提供,ならびにその特徴の分析による政策的インプリケーションの提示,海外のマイクロデータ利用とその展開に関して指摘を行った。
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