研究概要 |
21年度は本研究課題に必須である高性能のパソコンと統計・数値計算・GISソフトウェアを購入し,日本の近代製糸工場個票データの整備を行った.そのうえで独占的競争のモデルを基礎として,生産性が異質な企業の立地構造についてのモデル化を行い,集積地における生産性上昇を,技術的外部性によるものと,競争激化による工場の淘汰・峻別によるものとを識別しうる理論モデルを構築した.この理論モデルに基づいて実証分析を行った結果,日本の近代製糸業において,集積地での工場生産性上昇の多くが競争激化による工場の淘汰・峻別によって説明できるとの暫定的結果を得た.上記の成果は3回の査読付国際学会,1回の査読付国内学会及び5回の招待セミナーで報告された.最終年度となる来年度は以上の暫定的結果を基礎として,より現実に近いモデルの検討や,実証分析の手法の改善などによって,より詳細な分析を行う予定である.21年度は上記研究と平行して,人口移動に注目した研究も行った.つまり企業の空間的構造には,そこで働く従業者の移動がかならず伴われ,その労働者のスキル・選好も異質である.異質な労働者の選好を基礎として,推定可能な人口移動モデルを構築し,長期の日本の人口移動データを用いて地域間の効用格差を分析した.その結果,1950年代から70年代にかけて日本の地域間効用格差が劇的に解消されたことを示した.この成果は英文査読誌に採択された.
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