研究概要 |
平成22年度は平成21年度時点で中間的な結果を導いていた,戦前期製糸業のミクロデータを用いた,企業異質性空間経済学の実証研究について精緻化を進めた.特に平成22年度は,平成21年度の時点では暫定的なものであった,理論モデルについての再検討について最も重点的に取り組んだ.その結果,当時の産業の実態をより正確に描写することのできる理論モデルを作成することができ,それを基礎として,より詳細な実証分析を行うことが可能になった.また,同時に当時の産業の実態についても調査を進め,本研究の主要目的である,異質な企業が存在するもとでの集積の経済の効果について実証的検討を進めることができた.その結果,製糸業の集積地のように,単一産業の集積地における生産性上昇は,いわゆるマーシャル的な集積の経済ではなく,低生産性企業の淘汰によって大部分を説明できることがわかった.これは,多様な産業の集積地としての大都市を対象とした先行研究とはまったく逆の結果であることが極めて重要な発見であるといえる(大都市における生産性上昇は,企業淘汰ではなく,マーシャル的集積効果によって大部分を説明できることが近年発見された).本研究の結果は,企業異質性の観点を通じた分析を行うことで,大都市における多様産業の集積と,製糸業などの単一産業の集積との間には,その効果の経路について大きな違いがあることを浮き彫りにしたものであり,極めて興味深い結果であるといえる. この成果はパリにおいて開催された国際学会において報告された.また,論文としてまとめられたものは,一橋大学経済研究所附属制度センターのディスカッションペーパーとして公開され,現在国際英文査読誌に投稿中である.
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