本研究では、医療技術の進歩に対するアクセスをいかに担保すべきかについて、「リスク」と「費用負担」の観点から経済学的に研究することを主目的にしつつ、新しい医療技術を生み出すということ(研究開発)にも目配りしながら、より包括的に新しい医療技術へのアクセスの実現について検討した。このうち、新しい医療技術(未実現技術も含む)のアクセスにおける「リスク」と「費用」の定量化にあたっては、仮想的市場法を用いたコンジョイント分析を行うべく、独自のアンケート調査を行ったが、このデータを整理・加工する作業を行い、分析方法の検討を行った。調査は東日本大震災直後に行われたため、地域によってはサンプルが採れず、そのため地域バイアスの修正方法についても検討した。また、こうした患者側からみた新しい医療技術へのアクセスとは別に、そもそも患者に利用可能な新しい医療技術をいかに生み出していくという観点から、研究開発側にも目を向けた研究を行った。特に大学・公的研究機関といった基礎研究側、開発研究を担う企業側(経営層および発明者)、また基礎研究と臨床研究の間をとりもつ医師側、というように様々な視点から、データを用いて考察した。新しい医療技術にアクセスできるかどうかは、患者のリスクへの認識や経済的属性のほか、そもそも医療技術が生み出される環境にも依存する。その意味で患者側のみならず、研究開発側にも視点を広げて考察したことは、本研究に現実的なインプリケーションをもたらすものであり、意義があると考える。本研究は、新しい医療技術への潜在的ニーズが顕在化されるとともに、そのニーズをみたすべく研究開発体制のあり方にも示唆を与えるという点で重要である。
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