近年、国内外を問わず、物、人、企業の地域間移動は活発になり、地域経済間の結びつきが強くなっている。こうした結びつきの強化が、各国、各地域、そして各都市の労働市場にどのようなインパクトを与えるかを明らかにし、その意味を考察することが本研究の目的である。 今年度は、以下の二つの事柄についての分析結果を得た。まず、人々の技能が水平的にも垂直的にも異なる、つまり、技能の種類が複数有り、かつ、技能によって必要な訓練の程度が異なるときに、外国からの移民が受け入れ国の労働市場にどのような影響を及ぼすのかを分析した。人口移動は、流入した人々と似た職種・技能を持つ人々との競合を引き起こすため、そうした人々の労働条件を悪化させる。一方で、流入した人々と補完的な職種・技能の人々の労働条件を改善する。こうした影響は、直接的・短期的なものであるが、本研究では、これに加えて、技能形成という長期的な事象への影響も考慮し、移民の効果を分析した。その結果、短期的な影響に加え、長期にも移民が大きな影響を及ぼしうることを、アメリカのデータを用いたシミュレーションによって示した。この結果は、少子高齢化の解決策として外国からの労働力受け入れが検討されている日本にとって、極めて重要であると考えられる。 次に、貿易の深化が、当事者国の技能形成に与える影響について分析した。その結果、現代の経済において重要とされている規模の経済が存在するときには、技能形成への影響は貿易を行っている国の入口規模に左右されることが分かった。例えば、貿易が活発になると、規模の大きな国において技能形成が盛んになり、規模の小さな国では技能形成が低調になる。これは、自国市場効果、すなわち、規模の経済性の下での貿易が大国における貿易財生産を活発にするという効果から生じる結果であり、現代の国際貿易においては欠かせない視点と言える。
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