今年度は理論研究に加えて企業データや地域データなどを用いた実証研究もおこなった。既存の研究ではあまり注目されてこなかった企業の生産性の違い(異質性)を取り入れて、国際貿易及び空間経済学の研究をした。たとえばOkubo and Tomiura(2010a)では日本の工業統計の個票を用いて各都道府県の企業分布を計測した。また都市部と周辺部との生産性の格差を計測したが、従来言われているように都市部での平均生産性は高いことを示したが、それに加えて生産性の分散が高く、また中小企業なども多く立地しており、従来言われているような都市部での競争の激化で中小企業が生き残れないという定説とは異なる結果を得た。都市部での多様な生産性の企業の立地を示すことができた。続いてOkubo and Tomiura(2010b)では工業再配置補助金の効果を計測し、従来言われているように地域補助金により当該地域の雇用は増えた。さらに我々の論文では生産性の高い(収益性の高い)企業の誘致はできなかったことを示した。今日の地方分権や産業誘致政策の議論に示唆を与えるものといえる。理論研究ではOkubo(2010)は空間経済学のFootlooseEntrepreneurモデルに企業の異質性を加え分析した。従来のモデルでは注目されていなかった平均生産性の違いや異質性が及ぼす集積力への影響などを明らかにした。既存研究と違い、異質性が集積を促進することを示した。現在は当初の計画に従い、異質性を取り入れた国際貿易や厚生分析・政策分析に関する理論と実証を引き続き行っており、Fragmentation、企業のプラント・本社ネットワーク、企業の異質性に関してデータを整理、分析を進めている。
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