労働市場における雇用、失業の時系列の変動が、現実に観察される生産性ショック等と標準的な失業サーチモデルで数量的に説明することは、米国の労働市場データを使った既存研究では、大変困難なことが広く知られている。本年度の研究成果は次の2点である。第一に、同様の実証上の困難が、日本の労働市場においても存在するのか否かを確認した。公表データを用いて、職を見つける確率および離職確率を推定し、当該変数の統計的性質が、現実に観察される労働生産性ショックと離職のショックを加えられた標準的失業サーチモデルでは説明できないことが確認された。第二に、このような問題を解決しうる方法として、雇用者および企業双方のインセンティブの問題が、支払い賃金の現在価値の景気循環上の変動をより小さくさせるような新しいメカニズムを提示することに成功した。形式的には、雇用停止による労働者へのインセンティブ付与という、非現実的な効率賃金の設定の問題を理論的に解決している。M.Alexopoulos型の賃金不払いによるインセンティブ付与の賃金契約のモデルの理論的基礎付けを与えるものであり、Real Business Cycle Modelへの拡張が容易である。かかる設定を、標準的な失業サーチモデルに加えると、米国や日本で観察される雇用等の変動のかなりの部分が説明可能となる。従来、効率賃金の設定を失業サーチモデルに取り込んでも、雇用変動の説明能力はわずかしか改善されないことが知られているが、かかる実証上の問題も解決している。近年景気循環の文献では、賃金の硬直性の重要性が議論されているが、様々な関連文献への拡張が期待される。上記研究は、European Economic Association Meeting、Econometric Society Australian Meeting等での報告論文として採択されている。
|