研究概要 |
平成21年度は主として,私が公正取引委員会競争政策研究センターで行った2008年度共同研究の成果(日本で実際に摘発された談合メカニズムを幾つかの特徴的パターンに分類する研究)を活用して、現実の談合メカニズムの構造を経済理論上及び実証研究上重要な項目に基づいた,一種のデータベースを構築する作業を行った. また,そのデータベースを用いて,幾つかの興味深い発見を得ることができた.まず,日本の(摘発済みの)談合で実際に使用されているメカニズムの全体的傾向として,機械的なローテーションといった,比較的単純な構造を持つメカニズムが採用されていることが多いことが明らかになった.次に,理論研究及び実証研究上重要な論点であった,談合参加企業間の情報の非対称性を明示的に考慮した上で何らかの対応を施していると考えられるメカニズムは予想よりもずっと少ないことが明らかになった. 既存研究との対比において,これらの発見は重要な意味を持っているかもしれないと個人的には考えている.摘発済みの案件のみを対象としたデータベースであるため,サンプルバイアスによる影響は常に考慮しなければならないものの,これまでの理論/実証研究において,単純なメカニズムが持つ長所が過小評価されている可能性があるからである. 政策的な議論を行う際の土台部分に関わる議論にもなるため,詳細な調査と分析を行いながら,上述の発見をどのように解釈/理解すべきなのか,来年度以降も継続して取り組んでいく予定である. より少ない資源でより効果的に入札談合を防止・摘発するためにも、上述の発見が最終的には現実の談合メカニズムの構造の解明につながるような性質のものであるのかどうかを明らかにしていきたいと考えている.
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