本研究では知的財産権保護が国内のみならず国際的な知財取引に与える影響を多面的に明らかにした。知財保護により、権利の範囲が確定し、取引が促進されると考えられている。しかし、保護の強化は侵害リスクを高め、特に継続的イノベーションの場合には、改善的なイノベーションを阻害する可能性がある。それらに対処する方法として積極的なライセンシング、アライアンスを通じた取引がある。Asia Pacific Trade Seminarsで報告した研究では、まず保護の取引に与える影響が負である事を確認し、その後保護強化がアライアンスやライセンシングを促す影響を持つか確認した。また、それら知財取引には製品市場や技術市場での市場構造が重要な役割を果たす。製品市場での競争を抑止する目的でクロスライセンシングなどが用いられる可能性がこれまでの研究では指摘されている。 International Journal of Industrial Organizationに掲載された研究では、市場構造の決定要因を企業組織と関連付け、企業の流通部門との関係や技術条件、生産構造が市場構造に与える影響を明らかにした。日本における知的財産集約的な産業として農薬産業に焦点を当て、農薬企業の参入インセンティブ及び市場構造を企業の組織形態と実証的に関連付けて分析を行った。そして、企業資産の獲得による技術取引として合併、買収を分析した。企業の技術条件に応じて技術取引のインセンティブは異なると考えられる。本研究では国内の合併・買収が規制されていた時代のデータを用い、国内と海外の合併・買収に関わるインセンティブの違いを明らかにした。
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