研究課題
本研究は、日本の大学教授職労働市場における賃金と昇任の男女差、賃金昇任における男女差の原因となる可能性のある、教授職市場における労働流動性(Labor Mobility)の男女差についての実証研究を目的とする。本年度は、以前執筆して学術誌に投稿していた論文の、学術誌からのリヴィジョン依頼に対応して論文の修正を行った。まず、'Gender salary differences in economics departments in Japan'という論文に関しては、投稿した段階での論文では、男女間格差の推定及び、その他の変数の係数の説明にかなりのスペースを費やしたが、雑誌査読者の依頼により、男女間格差が大学又は教員のタイプにより異なる可能性をさらに推定することを求められた。例えば、男女賃金差はアメリカの研究によれば経験と共に減少するがこれが日本の教授労働市場でも確認できるか、リサーチに重点を置く大学とその他の大学に於いて男女賃金差に違いはあるか、国・公・私立大学の間で男女賃金差に違いはあるか、各ランクにおける賃金差に違いはあるか、等である。我々はこれらの点を詳細に検証し、(1)男女賃金格差は経験と共には減少していない、(2)賃金格差はリサーチ大学の方がより大きい、(2)公立大においてより大きな男女賃金差が認められる、(3)男女賃金差は各ランク内に存在するという3点を確認した。特に、賃金格差がリサーチ大学で大きいという発見であるが、リサーチ大学に於いては研究成果が給与に反映される可能性があり、しかしながら我々はリサーチの質をコントロールしていない。よって、男女間でのリサーチの質の違いが男女賃金格差の一部を説明しているかもしれないという可能性を示唆している。その他の重要な発見は、女性が家事などに時間を取られる事が原因となって賃金格差が起こるという仮説が棄却された事である。これは、未婚者の間での賃金格差の方が既婚者の間での賃金格差より大きい事、また家事に使う労働時間をコントロールした後でも賃金格差の推定値が全く変化しなかった事によって実証した。本稿はEconomics of Education Reviewにて掲載された。
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Economics of Education Review
巻: Vol 64, No.5 ページ: 841-862