研究概要 |
平成23年度は,研究計画で示した二つの研究課題の研究報告とそれらの分析の改訂作業を中心に行った。具体的には,2011年5月に熊本学園大学で開催された2011年度日本経済学会春季大会において「診療報酬改定による誘発需要の所得効果・代替効果の検証」として,また2011年7月にカナダのトロントで行われたInternational Health Economics Association (8^<Th>World Congress on Health Economics)において, "Medical Fee Revisions and Income and Substitution effects of Supplier-Induced Demand"として論文報告を行った。双方の学会で受けたコメントを基にして,研究課題の「医師誘発需要の波及効果に関する実証分析」をベースとした分析を"How do Medical Suppliers Respondto Medical Fee Reductions?(仮題)"として,「医療需要における事後的モラルハザードの推計」をベースとした分析を"Whose Moral Hazard Does Have Strong Impact on Increase in Health Care Expenditure?(仮題)"として,それぞれ改訂作業を行った。改訂に当たっては,推定値のバイアスを除去するために,より高度な計量経済学的な手法を用いて分析を行っているが,膨大な個人数と彼らの豊富な個人属性を有するマイクロデータを,膨大な計算量を必要とするプログラムにしたがって計算させているため,全ての分析はまだ終了していないが,主要な分析は概ね終了した。 いずれの分析も,(1)わが国における医療需要・医療供給に関する過去の研究の多くの問題点を克服している点,(2)医療扶助についてマイクロデータを用いた初めての研究である点,そして(3)比較的最近のデータを用いている点,という特徴を持っていることから,今後の日本の医療制度のあり方やその改革の方向性という2面に対して重要な政策的含意をもつ研究であると言える。
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