本研究では,2001年から2007年の厚生労働省の『医療扶助実態調査』および『社会医療診療行為別調査』の個票データを用いて,生活保護患者と健康保険患者の医療需要・医療供給行動の違いを検証した。分析にあたっては,医療扶助は無作為に割り当てられないという制度的な背景に伴うサンプルセレクションバイアスを調整するために,マッチング法を用いて検証を行った。これまで,わが国で医療扶助に関する詳細な研究がほとんど行われていないことを踏まえると,本研究の成果は,今後の医療扶助制度改革に対して重要な政策的含意を持つものであるといえる。 平成24年度は,昨年度に学会報告を行った研究課題の改訂を行い,以下のことを明らかにした。入院医療では,(1) 医療供給者は、診療報酬のマイナス改定に反応して被保護者と健康保険加入者の双方に不必要な入院医療を提供しており,特に2006年度に実施された史上最大のマイナス改定に対して最も強く反応した,(2) 長期入院している被保護者には不必要な医療サービスが提供されやすい傾向がある,(3) 不必要な画像診断サービスが,常時,被保護者と健康保険加入者に提供されている,ということが分かった。また,外来医療では,(1)初診月では被保護者へのアクセスコントロールが,彼らの過度な通院行動を抑制していること,再診月では被保護者のモラルハザードが存在することをそれぞれ示唆する結果が得られた。(2)診療報酬がゼロ・マイナス改定であったにもかかわらず、初診・再診料を除く医療費(診療費)は、初診・再診月ともに、それぞれ緩やかなU字型を描いている,(3)被保護者に対する診療費は、健康保険加入者のそれを常に上回っており、コスト意識が低い被保護者に過剰な医療が提供されていることを示唆する結果が得られた。 これらの成果は弊学部附属経済研究所のディスカッションペーパーとして公刊済み・公刊予定である。
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