平成23年度においては、厚生労働省からの提供を受けた「賃金構造基本統計調査」の調査票情報(個票データ)を利用して、看護人材の賃金や労働時間のような労働環境に関する分析を中心に行った。この結果から、診療報酬制度に内包された手厚い看護体制へのインセンティブは看護人材の賃金水準に影響することも見出された。これらの結果は論文としてまとめて所属研究所のワーキングペーパーとして公表した上で学会報告を行った。今後は、頂いたコメントを受けて学術雑誌に投稿する予定である。 さらに、総務省「就業構造基本調査」の調査票情報を用いて女性看護師の労働移動や就業意識に関する要因分析を前年度に行っていたが、平成23年度中に分析結果について学会報告をした上で、論文としてまとめた。この論文では、初職とのマッチングは職場定着にとって重要な要素であること、出産より結婚が安定的な就業志向を弱めて仕事をやめたり転職したりする契機となりやすいこと、近年正規雇用された若年看護師で転職志向が高まっていること等を明らかにした。 また、潜在看護人材数・潜在率の延長推計を行い、現時点で推計可能な2010年末時点での推計結果をまとめて所属研究所のワーキングペーパーで公表した。この際、看護職女性の年齢層別婚姻率について「国勢調査」の再集計を依頼し、看護職就業率と婚姻率の関係性についても検討した。近年において看護職就業率の上昇と婚姻率の低下が進んでいたが、若い世代では婚姻率の低下に歯止めがかかりつつ看護職就業率が上昇していたことも確認できた。 以上のような近年の看護人材の就業構造・労働環境に関する知見は、全体的な議論が中心ではあるが、今後の政策設計に重要かつ有益な情報が提示できた。
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