ジョブ・マッチングの質は求職・求人特性だけでなく、求人・求職方法によって大きく異なり、近隣の私的仲介者を通じた非市場的取引が大きな役割を果たすことが知られている。市場取引と非市場取引の混在は発展途上国で広く観察され、多くの研究者・政策担当者の関心を集めている。特に市場取引と非市場的取引の代替関係・補完性を深く理解し、「失業から就業へ」の労働市場構造に関する制度設計的議論を進める上では、求職者が(1)どの経路を通じて労働技能を蓄積し、(2)どの求職者によってジョブ・ネットワークが形成され、(3)形成されたジョブ・ネットワークの質と地理的範囲がどの程度かといった点に関する細かい知識が必要であろう。 今年度は研究開始年度にあたり、チャイナタウンへの現地調査と先行研究の概観を行い、次のような問題意識の下、モデル分析によって問題の特定化と吟味を行った。多数かっ極めて多様な求職者と求人企業が地理的に集中するような労働市場と、求職者と求人が地理的に分散している労働市場では、達成されるジョブ・マッチング数やその質を特徴づける市場規模や求職者と求人企業の属性が異なり、初期条件についてごく僅かの違いが増幅されるため、市場の賃金提示競争とジョブ・ネットワークを通じた非市場的取引の姿は全く異なるだろう。フォーマルな市場取引を避けて非市場的経路を選択する求人企業と求職者を所与とすれば、失業状態から就業状態への移行、例えば農村から都市への移動、産業の構造転換に伴う都市間移動を促すような政策プログラムの実施に際して、ジョブ・ネットワークの有効性を綿密な実証分析によって検証するような研究が待たれており、本研究がその萌芽的な役割を担う。
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