企業や研究者の研究成果を測る上で特許データの利用が近年盛んになっているが、本稿では利用上の問題となっている企業名の名寄せ作業を実施した。具体的には、本分析で利用する製造業に属する上場企業について、単純な表記揺れだけでなく、合併や企業内のリストラクチャリングに伴う企業名の変遷を考慮した名寄せを行った。データは外部に無料で公開されているIIPパテントデータベースの基となっているPAT-R0811を利用した。また名寄せの精度を担保するために、外部データベースとの比較を行った。 このような特許データの名寄せの必要性は、近年研究者の間で共有されておりTrajitenberg et al.(2006)やRaffo and Lhuillery(2009)、Thoma et al.(2010)等の論文で方法論等について議論されているが、近年問題として取り上げられているのが、名寄せの精度である。名寄せには、正しい企業名なのに異なると判断すると間違った企業名を正しいと判断してしまうという2つの誤差がある。このような誤差をいかに小さくするかが大きな課題であるが、本研究では、その誤差を最小にするために、プログラミングによるマッチングではなく、目視による識別を実施した。また必要に応じて特許書誌情報記載の企業に問い合わせを行い精度の向上につとめた。さらに、外部データベースとの比較により、その精度を確認した。このような精度の高い名寄せデータベースは、今後の自動名寄せの精度のベンチマークに利用できる可能性がある。 特許データを利用しない部分では、企業の研究者が発明報奨制度という成果賃金にどれ位反応するかのを発明者レベルのデータを利用して実証分析を行った。その結果、金銭的賃金に魅力を感じる研究者において、報奨制度は有効に機能することを明らかにした。
|