平成21年度は、少子高齢化とイノベーションの関連性について、マクロ動学モデルによる理論的分析を行った。その基本的枠組みは製品バラエティの拡大を伴う内生的技術進歩モデルに立脚しており、イノベーションは利潤動機に呼応した企業の研究開発(R&D)活動を通じて創出される。モデルから導かれる主要な経済的含意は次のとおりである。(1)人口減少や高齢化の進展に付随してR&D企業の製品開発パフォーマンスが停滞し、イノベーション率が低下する。(2)労働者の引退年齢の上昇はイノベーションの促進に正の影響をもたらす。これは高齢者の就業促進政策が年金制度との整合性のみならず、経済の持続的成長の達成という観点からも重要であることを意味する。この成果を纏めた論文は、平成22年度の日本経済政策学会全国大会において報告予定である。 また、イノベーション政策の考察のため、日本とアメリカの技術進歩に関する統計解析を行った。ベイズ手法による推定の結果、1990年代以降、アメリカの技術進歩が緩やかな上昇トレンドを示したのに対し、日本の技術進歩のパフォーマンスは低調であったことが確認された。本研究の分析結果は、日本経済の持続的成長の実現に向けて、ナショナル・イノベーション・システムの再検討が喫緊の課題であることを示唆する。
|