本研究は、今後の地域政策のあり方を検討するため、1990年代以降における企業の海外進出の進展が地域間の賃金・雇用機会の格差に及ぼす影響を実証的に検証する。また、2000年代以降の地方分権化の流れの中で、地域自発型の経済振興策として注目される構造改革特区について、独自のアンケート調査ならびに全自治体に関するマクロデータを用いて、地域提案型の規制緩和策が地域レベルの雇用創出に与える影響を実証的に明らかにすることを目的としている。平成21年度は、交付申請書の研究計画に基づき、つぎのような研究活動を行った。(1)規制緩和を用いた地域雇用創出施策の評価について、構造改革特区を実施した自治体に対して2回にわたって実施された独自の調査に基づいてその雇用創出効果に関する実証分析行った。(2)総務省統計局「事業所・企業統計調査」の1996年から2006年の5時点にわたる報告書非掲載表記を収集し、市区町村別、産業小分類別の事業所数および従業者数に関するデータベースを整備した。その結果、次のような研究成果が得られた。(1)2000年代半ば以降に実施された地域提案型の国の雇用施策への参加については、財政力が低く、独自財源による雇用創出施策を持ち得ない自治体が国の制度に参加する確率が高いことが明らかにされた。(2)その一方で、企業誘致や新規開業・創業支援、地域の産学官連携の構築など、特区で講じられた規制緩和策を補完する独自の雇用創出施策を実施している自治体ほど、認定度の取組の断続を通じて、自治体が認識する雇用創出効果が高まることが示された。これは、自治体による主観的な評価基準の異質性によらない頑健な結果であり、さらに特区計画に関連する雇用創出策をもたない自治体では時間の経過によって主観的な雇用創出効果が低下していることから、規制緩和策のみでは持続的な雇用が見込あないことを示唆している等の知見を得た。
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