研究概要 |
本年度は,女性に対する差別の経済的な損失に着日した研究を行った。具体的な内容および成果としては以下の二点が挙げられる。 1.ブラジルの労働市場において女性差別が存在しているかどうかを確認するために,企業データを用いて女性労働者比率と利潤率との関係を分析した。分析手法としては,DEA(Data Envelo+pment Analysis)を用いてノンパラメトリックに企業の利潤効率性(profit efficiency)を計測し,得られた企業の利潤効率性スコアと女性労働者比率の関係を分析した。その結果,ブラジルの製造業では,女性従業員比率の高い企業ほど利潤効率性が高くなっていることがわかった。昨年度の成果として,ブラジルにおいて女性にはその生産性と比べて低い賃金しか支払われていないということを示したが,今回の結果は,女性を差別しない企業は生産性と比べて低い賃金で雇用することができる女性労働者を多く雇用することにより高い利潤を上げることができるということを示唆しており,男女間賃金格差が女性に対する差別を反映したものであることの裏付けとなった。また,ブラジルへ渡航して現地の大学の研究者と議論し,ブラジルにおける男女間賃金格差および女性雇用と企業の利潤効率性に関する研究について貴重なコメントを得た。 2.女性の社会進出と経済成長の関係について,成長回帰分析の枠組みで分析を行った。特に学校教育の不平等に着目して,修学年数に関するBarroとLeeのデータから各国の平均修学年数と教育の不平等度の指標を算出し,それらと経済成長との関係を分析した。その際,教育の不平等度は同じ性別の中での不平等と性別間での不平等に分解し,男女の不平等が経済成長に与える影響の計測を試みた。結果の頑健性についてのさらなる検証が必要であるが,男女間の教育の不平等が経済成長に対して負の影響を持つことが示された。
|