研究課題
平成22年度科学研究費補助金の交付を受けた研究において、我々は以下のような研究成果を得た。第一に、陜西省西安市企業ミクロデータによる計量分析の結果、後進地域における企業間信用は民営企業・中小企業から国有大企業へ資金を流出させるような効果をもつものの、民営企業内では生産性が高く資金不足状況にある企業へ資金を配分する効果を持っていることが観察された。そして、このような企業間信用による資金配分効果は、企業による特定の取引関係への投資の結果生じている可能性が高いことも示された。対照的に、国有企業に対してはこのような資金配分効果は観察されなかった。以上より、中国後進地域においても、企業間信用による金融仲介が企業家の生成を促進するという経済全体に対する貢献を、一定程度していることが解明された。これは前年度における成果に修正を迫るものである。第二に、省レベルマクロデータによる計量分析は、民営企業による投資を直接に促進する決定要因は、金融システム中の企業間信用の発達であり、その企業間信用の発達を促進する決定要因の一つが法制度の良好な機能であることを解明した。言い換えれば、法制度の良好な機能は、企業間信用の発達を通じて間接的に企業家の生成を促進しうるという政策的含意が得られた。第三に、現地聞き取り調査からは、中国後進地域に立地する企業では法制度への信頼感は低い反面、企業による特定の取引関係への投資は盛んであり、法制度に頼らず特定の取引先との間に強い関係を築くことで企業間信用の与受信を円滑に行おうとする傾向も確認された。また、民営企業・中小企業を中心として、他のオルタナティブ金融-民間金融・企業間貸借-の会計上の処理を隠匿せず別項目に組み入れて行うケースが多いことも明らかになった。そして、この民間金融・企業間貸借による金融仲介が企業間信用の機能不全を一部穴埋めしていることが分かった。
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Journal of Chinese Economics and Business Studies
巻: (forthcoming 掲載確定)
Economic Change and Restructuring
巻: Vol.43, No.3 ページ: 221-251