本研究の目的は、中国の株式市場の価格形成について分析し、金融政策が株価に影響を及ぼす経路を明らかにし、中国の株式市場に対する有効な金融政策を考察することにある。 2010年度は、主として資料収集、実証分析、論文執筆、研究成果の発表の四つの点で研究実績を上げることができた。資料収集については、中国の株式市場と金融政策について、中国に出向き、資料収集を行い、現地の研究者と意見交換をした。実証分析については、中国の株価変動に対する金融政策の影響について考察するため、株価、金融変数、実体経済の変数からなるVARモデルにより分析を行い、金融政策の株価変動に対する効果を考察した。具体的には、株価、預金金利、M2、工業生産の4変数について、共和分検定、グレンジャー因果性テストとインパルス反応の分析を試みた。分析結果から、現在の中国では、株価の変動に対して、金融変数の影響はそれほど大きくないが、預金金利に比べ、M2は比較的に影響していることが分かった。金利の株価に対する影響が小さかったのは、現在の中国では、貨幣供給量が金融政策の主な手段であり、金利がまだ規制されており、完全に市場化されていないためである。また、中国では資本取引が規制されており、海外の投資家は中国の株式市場に自由に投資できない。今後、金利と資本取引を自由化するには、法制度の整備、不良債権の処理などのプロセスを踏まえながら、着実かつ慎重に段階的に進める必要があると思われる。さらに、2010年度において、世界金融危機の中国の株価に対する影響を明らかにするため、中国の株価と世界主要株式市場との連関についても分析を行った。 研究成果の一部を和文と英文の論文にまとめ、中国経済学会(2010.6.20)やAsia-Pacific Economic Association (2010.7.9)、Finance and Economics Conference 2010 (2010.8.18)などで報告し、多くの専門家から意見やコメントをいただいた。
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