本研究は新興市場におけるマクロ経済ショックが貧困層に及ぼす影響を、財政運営やガバナンスとの関連から分析することを目的としている。四年計画の二年目にあたる今年度は、インド中央・州政府の財政スタンスに関する実証分析を行った。その結果、中央政府・州政府の財政スタンスはともに、プロサイクリカルであり、マクロ経済ショックの緩和や、貧困削減の観点からは、必ずしも適切ではない財政運営が行われてきた可能性が高いことが明らかにされた。ただし(1)景気の後退期に関しては、財政出動がなされる傾向が比較的みられることから、好景気時における財政運営により課題が多いこと、(2)中央と州の財政運営の間には、制度的な側面を考慮するのであれば、さほど大きな差異はみられないこと、も明らかになった。この成果については「インドにおける景気変動と財政運営」とのタイトルで『南アジア研究』において近日中に刊行される。また、ミネルヴァ書房より近日中に刊行される「現代南アジア・インド経済論」の第二章「インドの財政政策と財政制度」においてもその一部が反映されている。その他、インドの主要州については個別に検討を行い、実証分析はほぼ終了している。解釈上の問題点がいくつか残されているため、それらを早期に解消し、論文としてまとめる予定である、以上の財政スタンスの分析については、これまで必ずしも十分に行われていないことから、当該分野における一定の貢献となりうると思われる。 一方、昨年度は手つかずであった、比較対象であるブラジル研究に関しては、神戸大学経済経営研究所の西島章次教授のご指導をいただきながら、マクロ経済と財政に関する主要データの入手・加工をほぼ終了することができた。ただし具体的な実証分析にまでは至っていない。新年度はこの成果を踏まえて、ブラジル研究にさらに注力することとしたい。
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