研究初年度である平成21年度は「医療・介護格差」の存在を明らかにすると同時に、その「医療・介護格差」がどれほどの社会的損失を生み出しているのかについて経済学的に計測することを研究目標とし、国内外の論文等や既存の統計データ等の精査・分析を通じて「医療・介護格差」とは何かについて客観的に捉えることを行った。 医療格差を解決するための方策の一つとして「医療機関の効率性」が挙げられるが、この問題に対する研究は経営の観点から、すなわち「供給サイド」からの効率性に関する評価がほとんどである。本研究では「需要サイド」から医療機関の効率性を検証してみた。我が国の医療制度の特徴として、(1) 国民皆保険制度と(2) 医療機関選択の自由が挙げられるが、その中でも後者は、高度・専門医療施設の受療体制や救急体制の効率性の向上の観点からも非常に大きな課題を抱えている。これを受けて、かかりつけ医制度のより一層の定着が図られているが、実際近隣の診療所や医院がかかりつけ医療施設として選択されているのかどうか、すなわち、人々のかかりつけ医療施設の選択行動についての分析を行った。 結果として、近隣の医療施設をかかりつけ医療施設として選択するか否かは、年齢や家族構成などの社会経済的な属性に依存し、特に医療費の自己負担額の額によって近接医療施設の利用確率が大きく変化することが示された。さらに近接医療施設の選択には、医療施設の規模や専門性には関係なく、自宅からの「近接性」が重視されていること、専門医療施設で受療後、近隣医療施設に戻らずそのままその専門医療施設での治療を行っている患者が多いといった「かかりつけ医」本来のシステムが十分機能していないことなどが証明されている。 すなわち、本論文では、我が国の高度医療機関の効率性を向上させるためには、受診制約を課すなど、より厳格なかかりつけ医制度の導入する必要があることが示唆されている。
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