本研究は、(1)我が国における「医療・介護格差」の存在を明らかにしたうえで、(2)「医療・介護格差」がもたらす社会的損失を計測、(3)さらに「終末期」の医療・介護サービスの社会的意義を経済学的に捉えたうえで、(4)人口減少・高齢社会に対応した有効な「医療・介護システム」を提言すること、を目的とするものである。 研究初年度は「医療・介護格差」の存在を明らかにすると同時に、その「医療・介護格差」がどれほどの社会的損失を生み出しているのかについて経済学的に計測することを研究目標とし、国内外の論文等や既存の統計データ等の精査・分析を通じて「医療・介護格差」とは何かについて客観的に捉えることを行った。さらに、医療機関の効率性の評価として、人々のかかりつけ医療施設の選択行動についての分析を行った。その結果、消費者(患者)は近接性という観点から医療機関を評価していることが明らかになったことから、医療格差は居住環境によるところが大きいことが改めて確認されている。 最終年度にあたる平成22年度には、わが国における経年的な「医療・介護格差」を検証することを目的として、わが国における医療・保険制度の変遷を整理したうえで、総務省の提供する「家計調査」及び「全国消費実態調査」のデータを用い、医療・介護格差の実態を分析・検証するため、所得階層別に医療サービスの需要を評価した。この評価には、医療アクセスの不平等を計測するうえで有効であるとされるカクワニ指標を用い、結果として、(1)わが国の医療・介護格差は年々拡大傾向にあり、特に2000年以降の拡大傾向が顕著であること、(2)直近の医療・介護格差の現状は、低所得層が医療需要を抑制している傾向にあること、などが明らかとなった。わが国における近年の医療・介護格差は過去とは大きく様相を異にしており、今後、低所得層における医療に対する需要抑制を緩和させるような政策が必要であるといえる。
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