アジア諸国における通貨代替の研究はあまりなされておらず、また、ネットワーク外部性を明示的に考慮した分析も少ないのが現状である。 しかしながら、支払い手段として外貨を用いる経済主体の数が多くなれば、外貨を用いて財を購入する際の限界費用を逓減させるように作用するため、自国通貨ではなく外貨を保有するインセンティブ(通貨代替)が高まるというネットワーク外部性が通貨代替の進展に大きな影響を及ぼす可能性がある。 そこで、今年度は昨年度に分析を行ったインドネシアとタイにフィリピン、マレーシアを加え、ミクロ経済学的基礎を持ち、ネットワーク外部性を含む通貨代替型money-in-the-utility-functionモデルに基づく実証的分析を行った。 推定にはARDLモデルを用いた。これは、通貨代替にはマクロ経済が不安定な時には急速にその程度は増大するが、マクロ経済が安定化しても、短期的な自国通貨への回帰はなかなかみられず、その程度は徐々にしか低下しないという履歴効果が存在することを考慮したためである。 分析の結果、すべての国において通貨代替が進展しており、かつ履歴効果が存在していることが明らかとなった。これはこれらの国の通貨当局が最適な為替相場制度を選択する際には、通貨代替の存在を考慮しなければならないことを意味する。 また、通貨代替の進展の非対称な効果についても分析を行い、ラチェット効果は存在していないことも明らかとなった。
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